【歌詞解釈】SKE48『旅立てジャック』-真の旅立ちに至るまで

SKE48『旅立てジャック』(作詞:小室哲哉/藤井徹貫 作曲:木根尚登

 

”愛を君に、愛を僕に”公演の3曲目。

『旅立てジャック』はこの公演の中で一番ロックな印象の強い曲調。

歌詞も、旅立つ準備はできてるか さあ行こう 踏み出せ と勇ましい。

「よっしゃいくぞー!」という掛け声がピッタリくる曲。

 

スラスラ読める歌詞で解釈の余地なし……かと思いきや、とんでもなかった。

歌詞の表側からは見えない隠された心の動きが濃厚に描かれている。

その上、この歌詞には時代を超えた大きな仕掛けが施されている。

そのあたりを追っていきたい。

 

youtu.be

 

以下、長文の歌詞解釈をしていきます。

根拠があるのかないのか。どの程度の信憑性がありそうな解釈なのか。

そのあたりがなんとなく伝わるように心がけています。

文章がまどろこしくなるのを避けるため、やや断定的な口調で書いています。

その点はご容赦ください。

長文がキツイという方には、目次の★のついた部分がおススメです。

 

 

語りたいポイント

この曲の歌詞を読んで気になったところは、3つ。

1.Aメロ&Bメロとサビとの関係

AメロBメロからどういう流れで旅立つことにしたのか。

2.ジャックは何者か?

謎の人物、ジャック。

彼の正体は一体なにか。

3.Cメロの謎の景色

他の歌詞と明らかに異質で詩的な白い月。

妙に強調される月は何を表しているのか。

 

①Aメロ&Bメロとサビとの関係

AメロBメロとサビがパッと見では繋がっていないように見えるため、掘り下げる。

 

AメロBメロが登場するのは合計3回。

3回とも内容的には似ている。

Aメロでは、周りのオトナの理不尽に主人公が反発する

Bメロでは、その周りに屈しない生き方の価値を認め肯定する

という流れ。

 

1番Aメロ(前半)

子ども扱いは うんざり

自分の事は自分で決めろ

制限 門限 げんなり

自分の道なんだもん

1番Bメロ(前半)

聖人君子じゃあるまいに

たまにはコケるし 踏み外すさ

1度や2度やらかすくらいなら

なんでもないさ

 

Aメロでは、親の過保護な心配に不満を持っている。

そしてBメロでは、失敗なんか気にして生きることない!と主張。

 

1番の後半も同じ流れ。

Aメロで、見知らぬヤツの上から目線に反発している。

Bメロでは、相手が誰だろうと迎合せず生きよう!と言い放つ。

2番も同様。

Aメロでは、事なかれ主義と正直者が損する社会に否定的。

そしてBメロで、そんな社会に合わせず自分らしさ優先でしょ!と断言。

 

いまの流れを受けてサビ。

これを考える前提として、先にこの曲の登場人物を確定させておきたい。

サビでは、主人公がジャックに問い掛ける形をとっている。

主人公のほかに、ジャックが登場する。

しかし、おそらく多くの人が歌詞を読んで思ったとおり、登場人物は主人公1人だ。

主人公が準備はいいか!旅立て!と煽り続ける歌は常識的にあり得ない。

ジャックは、主人公の心の中の人物だ。

なお、ジャックの詳細な正体については、後で語る。

 

さて、Bメロで周りに屈しなくていいと自己肯定した。

そうするとサビでは、さぁ旅に出よう!という気持ちになっている。

繋がっているだろうか?

周りに屈せず生きていいんだと思えたあと、普通はどういう反応になるか。

あ~良かったマイペースに行こう、ではないだろうか。

うるさい親のいうことなんか聞かずに家でゲームしてよう、でも良いはずだ。

なのにこの主人公は、よし旅に出よう!準備はいいか!踏み出せ!と息まいている。

となると、ここに隠れた前提がある。

主人公は、もともと旅出たなければいけないと思っていた、という前提。

だけど周りがうるさいし外に出ても報われない。

だからくすぶって引きこもっていたのだ。

これで繋がる。

 

本当はやるべきことをやるために前に進んでいかなければならない。

でも親がうるさいから踏み出せない。

上から目線で文句を言うやつがいるから動き出せない。

社会が良くないから何もする気になれない。

これが主人公の初期状態。

そこから、周りなんか気にしなくていいじゃないかと割り切って自分を奮い立たせた。

そうして旅立とうという気持ちになったのだ。

 

②ジャックは何者か?

タイトルを読んだ瞬間、誰もが謎に思ったジャック。

ジャックが主人公の心の中の人物であることは察することができる。

しかし主人公は日本人なのに、女の子なのに、なぜジャック?

歌詞を読んでもジャックに関する情報は全く出てこない。

 

答えはどこにあるのか。

 

実は、「旅立てジャック」とネット検索をすると、一発で答えにたどりつく。

レイ・チャールズ『旅立てジャック(Hit the road Jack)』

音楽史に名を残す伝説的ミュージシャンの代表曲の1つ、とされる。

 

youtu.be

 

こんな独特なタイトルで、完全一致。

しかも音楽業界では有名な曲。

となれば偶然の一致はあり得ない。

ジャックの由来はこれだ。

 

では、この元ネタであるレイ・チャールズの『旅立てジャック』はどんな曲か。

(紛らわしいので、以降は原題の『Hit the road Jack』と表記)

一言でいうと、ろくでなしの歌。

女性から愛想つかされ、金も稼がない奴は出てけ!と言われるJack。

いつか立ち直るから酷いこと言わないでくれよ~と懇願するも、許してもらえない。

じゃあ荷物まとめるよ…と言いつつ、本気じゃないんだろ?と顔色を窺ってみたり。

女性とJackのそんなやり取りが繰り広げられるコミカルな歌だ。

 

『Hit the road Jack』では、ろくでなしのJack。

これに対して『旅立てジャック』(SKE)の主人公は、だいぶ前向きだ。

自分から旅に出ようとして、準備はいいか、踏み出せ!と自分を鼓舞している。

両者には一見ほとんど共通点がない。

それなのに主人公はJackに自分を重ねている。

これは、主人公がJackの背景を想像で埋めたものと推測できる。

つまり、Jackには実はこういう面があったのだと解釈したのだ。

ろくでなしだけど、ある意味で純粋な男なのだ、と。

純粋ゆえに、理不尽を受け入れられず、葛藤し、働きに出られなかったのだ、と。

自分の生き方を肯定できればきっと前に進める奴なのだ、と。

主人公は、Jackをこういう人物だと想像したものと思われる。

そして自分の心の中のくすぶっている面を”ジャック”と呼んだのだ。

これがジャックの正体だ。

 

③Cメロの謎の景色

Cメロ

寒い国の 白い月は

凍え眠る

この曲で印象深い歌詞がCメロ。

息も凍りそうな寒さ、静けさ、透明感。

動植物ではなく月が凍え月が眠るという幻想的な表現。

詩の形式面も美しい。

漢字ひらがな漢字ひらがな漢字ひらがなという規則的な並び。

4文字をワンセットにして3組並べるのも規則的で美しい。

音としても、サムイ クニノ シロイ・・・とすべて3音で揃えてある。

情景としても言葉の並びとしても、非常に美しい歌詞。

 

だけど、この情景には前後の脈絡がないように思える。

それまでの印象とまったく違う情景がいきなり差し挟まれている。

異様に美しく強調されているため、余計にどう捉えてよいのか戸惑う。

寒い国のお話はどこから出てきたのか。

白い月が強調されているが、なにを表現したいのか。

この曲でダントツに解釈が難しく、鍵となるポイントだ。

 

歌詞の中にヒントがないか探してみる。

国を示すような歌詞は一切ない。

 

白い月はどうか。

これは、対になるものがある。

「昇る日」「沈む日」。

つまり、赤い太陽だ。

歌詞や比喩表現を読み解くときに”対比”になる箇所は、大ヒント。

そこで「日」が出てくる歌詞をピックアップしてみる。

 

1番サビ

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

日が昇る

2番サビ前半

昇る朝日に背を向け

Are You Ready?

さあ、行こう

2番サビ後半

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

日が沈む前に

 

並べてみたことで、2つハッキリした。

 

1つ目-対比。

赤い太陽が出ているとき、主人公は、よっしゃ行くぞー!の気持ちだ。

自分を焚きつけている。

対して、白い月のとき。

主人公の気持ちはどうなっているか。

赤と白、太陽と月、非常にきれいな対比だ。

黄色い月ではなく、わざわざ白い月と指定して、対比がより明確になっている。

きれいな対比、ということは、心情は真逆であることを示している。

つまり、白い月のパートでは、主人公ののだ。

明確な対比表現がある以上、こう解釈するのが鉄則だ。

これを否定する強い根拠が出て来ない限り。

なお、これを否定する根拠になり得るラスサビについては、後ほど触れる。

 

2つ目-時系列。

日が昇る(1サビ)→→昇る朝日(2サビ前半)→→日が沈む前に(2サビ後半)

歌詞が下るに従って、明け方→→朝方→→夕方、と時間が経過している。

この間、主人公は何をしていたか?

答え。

あえて言うならば、自問自答だ。

旅立つ”準備”はできてるか?

Are You Ready? Are You Ready? Are You Ready? Are You Ready?

行こうよ、ジャック。踏み出そうよ、ジャック。

……そして、白い月も凍え眠る夜になった。

 

踏み出そうとなんとか自分を奮い立たせた。

しかし、何もできないうちに時間が過ぎ、気持ちが萎えた。

そんな弱い自分の本質に直面しているのが、このCメロだ。

 
答え合わせ

この結論は、メロディの勇ましさからするとにわかには信じがたい。

しかし、少し考えてみるとむしろ当たり前の結論だ。

というのも、ジャックの原型は、女性に愛想尽かされたろくでなし。

ベースがあのJackなのだから、そんな簡単に踏み出せるわけがない。

自分の生き方を肯定して踏み出そうという気持ちにまでは持って行けた。

それでも実際に踏み出すとなると、難しい。

ずっとくすぶっていたジャックがそう簡単に旅に出られるわけがないのだ。

 

思えば、主人公の意気込みには具体性がなかった。

地平を目指す!とか、風に乗る!とか、抽象的で遠大な話ばかり。

本当にやる人は、もっと具体的で現実的なことを話す傾向にある。

例えば、お気に入りの服を着て気合いを入れたとか。

ベッドから出て朝食をとって歯を磨いた、とかでも良い。

靴紐をきゅっと結んだ、だとなお良い。

こういった具体性ある歌詞の欠如から、旅立ちを躊躇っていることが透けて見える。

 

2番サビの「日が沈む前に」という歌詞も、その流れで読むとしっくり来る。

1番サビの方の歌詞は「Are You Ready? 日が昇る」。

2番サビ(後半)では「Are You Ready? 日が沈む前に」。

同じメロディなのに、「日が沈む」の方にだけ「前に」が付いている。

「Are You Ready? 日が沈む」でも意味は通る。

字面も音もその方が据わりが良い。

にもかかわらず「前に」がついている。

日が昇るときの気合いと日が沈む頃の気合いとの間にはなにか違いがあるのだ。

「前に」は、期限をあらわすワード。

とすると、焦り。

夕方までにはなんとか出発しないと!という焦りが含まれていると分かる。

出発できずに半日以上経過していることへの焦りだ。

 

同じようにラスサビ「時の流れは待ったなし」という歌詞。

それまでは「旅立つ準備はできてるか」が当てられていた箇所。

この曲のテーマであり一番インパクトのある歌詞がラスサビで変更されている。

意識の重点が、旅に出ること自体よりも時間が経過の方に行っているからだ。

もう出発しなきゃ!という気持ちが読み取れる。

 

歌詞や背景事情にこれだけ多く裏付けがある。

やはり、時間ばかりが過ぎていってジャックは踏み出せずにいるのだ。

 

真の旅立ち

夜になり、自分の凍え眠る気持ちに直面した主人公。

朝から奮起したものの、自分を動かすには至らなかった。

では自分の中のジャックを鼓舞し続けたのは無駄だったのか。

どうも、無駄ではなかったようだ。

 

ラスサビ(前半)

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

星を辿って

重い荷物を背負って

Are You Ready?

 

主人公が具体的で現実的なことを話していない、とさきほど指摘した。

この点、「星を辿って」というワードは、少し現実的だ。

なにせ、2番では「風に乗る」という空想的な方法だったのだ。

 

もっと大事なのが、「重い荷物を背負って」。

ついに、具体的なワードが登場した。

「荷物」。

旅の準備といえば、荷づくりだ。

このワードが出たということから本気度を感じる。

しかも「重い」という言葉。

実際の旅立ちというのは、風に乗って遠い地平まで行ける気軽なものではない。

大変な思いをしながらボロボロに疲れ果てながら行くものだ。

旅の計画を夢想しているときは愉快なことばかりが思い浮かぶ。

しかし、いざ行こうという段になると面倒なことがたくさん頭をよぎるものだ。

旅に対する大変さを示すワードが登場し、かなり現実味を帯びてきた。

 

どうやら、Cメロの箇所で自分の本音に直面しきちんと対峙したようだ。

勇ましい言葉で励まし俯瞰する自分とは裏腹に、凍えて眠る自分があらわになった。

ジャックいけるよ、踏み出せよ、と発破をかけていたが、弱い自分こそが本質。

そう自覚して、弱い自分を”ジャック”として他人のように扱うのではなく統合した。

自分の中に統合して折り合いをつけたのではないか。

ラスサビではもはや「踏み出せ」や「さあ行こう」というワードは出て来ないのだ。

 

ラスサビ(後半)

時の流れは待ったなし

Are You Ready?

進む覚悟はできてるか

Are You Ready?

 

ラスサビには決定的な単語がある。

「進む覚悟」。

「旅立つ準備」だった部分が「進む覚悟」に置き換わっている。

旅立つ準備を問うのは、スタート地点に立つ前の段階。

進む覚悟は、スタート地点に立ってから問われるもの。

これで確実。

主人公は、いまにも旅立とうとしている。

 

最後のAre You Ready?の連呼。

ここまでを踏まえると強さを感じる。

1番と2番の間奏のAre You Ready?は、自分に言い聞かせている印象。

最後のAre You Ready?は、葛藤しながらも気持ちが湧き上がってきている印象。

 

曲の最後。

ダダ・ダダ・ダダダダダと疾走感のある音が鳴り、最後にダーンで終わる。

最後のダーンが、個人的にはドアを勢いよく開けた音に思えた。

主人公は、夜の一番寒いときに自分に直面し葛藤しながらも前に進むことを決めた。

そして、最後にはドアを開けることに成功したのだと思う。

真の旅立ちに至ったのだ。

 

時を経て旅立つジャック

『Hit the road Jack』は日本に入ってくる際に間違った訳がついたと言われている。

Hit the road には、”旅立て”という意味もあるが、どう考えても文脈に合わない。

ろくでなしのJackに腹を立てた女性が、旅立て!と背中を押すのはおかしい。

もう1つの意味である”出ていけ!”が正解だ。

ろくでなしがウダウダしている曲なのに、勇ましいタイトルがつけられてしまった。

これがおそらく60年ほど前のこと。

当時はこういう誤訳がときどきあったらしい。

 

誤訳により旅立つ使命を負ってしまったJack。

しかし、Jackはもちろん旅立たない。

『Hit the road Jack』の歌詞の後もしかしたら家を出たかもしれない。

しかし、それは自発的で積極的な旅立ちではない。

Jackは誤訳によって旅立つ使命を負わされ、ずっと果たせない状態にあった。

ずっと旅立てジャックと言われながら旅立つ姿を見せられていなかった。

そのJack(ジャック)が、この曲で、ついに旅立ったのだ。

それもただジャックという名前の人物が旅立ったのではない。

Jackのダメな部分をしっかり宿した主人公が覚悟を決めて旅立ったのだ。

60年の時を経て、小室哲哉/藤井徹貫がJackの使命を果たさせたのだ。

だいぶメタ的な見方ではあるが、とてもとても熱い物語。

 

あとがき

歌詞解釈2回目。

”上げて下げて上げる”歌詞という結論になりました。

曲調からするとシンプルに熱いだけ解釈が合う気もします。

なので、これで本当に合っているか何度も不安になりながら書きました。

もっとも、ひねらず順当に解釈したのでそう外していないのではないかと思います。

とはいえライブではシンプルに熱い曲をイメージした方が楽しめるかもしれませんね。

 

ちなみにこの曲で個人的に好きなのは、仲村和泉さん。

曲調に合った挑発的な表情とパワフルなパフォーマンスが魅力です。

 

今後ですが、愛を君に愛を僕に公演の中で何曲か解釈をやりたい曲があります。

『嵐からの隠れ場所』『小悪魔ブルーベリー』あたりが面白いと思っていますが、かなりガッツリした分量になりそうなので、箸休め的なものを入れたいなと考えています。

 

【歌詞解釈】SKE48『ともだち』徐々に明かされる関係性

SKE48『ともだち』(作詞:小室哲哉/藤井徹貫 作曲:木根尚登

 

”愛を君に、愛を僕に”公演の13曲目にあたるこの曲。

いかにも小室哲哉らしい特徴あるタイトルの公演曲が並ぶなか、『ともだち』。

圧倒的に地味な題名だ。

歌詞も片思いと未練とエモワードを散りばめた、ありがちな曲。

最近までそんな風に思っていた。

しかし読み込んでみると印象はガラッと変わった。

とても巧妙に仕掛けが施された歌詞。

違った色合いが見えてくるタイトル。

技巧と情緒にあふれる素晴らしい曲だった。

衝撃を受けた勢いで1万字を超える解釈を書いてみた。

 

youtu.be

 

以下、長文の歌詞解釈をしていきます。

根拠があるのかないのか。どの程度の信憑性のありそうな解釈なのか。

そのあたりがなんとなく伝わるように心がけました。

文章がまどろこしくなるのを避けるため、やや断定的な口調で書いています。

その点はご容赦ください。

長文はキツいという方には、目次の★のついた部分がオススメです。

 

 

 

前置き

この歌詞の登場人物は3人。 ”私” ”あなた” ”あの娘”

”あなた”は全サビに登場し、”あの娘”は2か所だけの登場。

”あなた”は”私”の片思いの相手。

冒頭の場面では”私”と”あなた”が話しているところから始まる。

 

1番Aメロ(前半)

ごめんね ありがとう

もう行かなきゃ

茜雲 宵の明星

置いてけぼり

 

「ごめんね ありがとう もう行かなきゃ」

まずは簡単な解釈から。

このセリフを言ったのは、誰か。

”私”なのか”あなた”なのか、パッと見では分からない。

ヒントになるのはその後ろの「置いてけぼり」という歌詞。

置いてけぼりを感じているのはこの歌詞の主体、つまり”私”だ。

となると「もう行かなきゃ」と言って去っていったのは”あなた”。

なので”あなた”の言ったセリフだと確定できる。

 

「茜雲 宵の明星」

茜雲も宵の明星も夕方に現れる。

夕方、おそらく放課後に”私”が”あなた”を呼び止めたのだろう。

宵の明星は、一番星のこと。

夕空にポツンと孤独に存在する。

置いて行かれた私の状況や心情と一致する。

茜雲は、夕焼けに浮かぶ薄暗く赤みがかった雲。

夕焼けは切なさや寂しさのメタファーとされる。

雲がかかっていて切なさがさらに強調される。

これも同じく私の心情。

茜色の夕空に雲がかかり一番星がポツンとしている。

その光景に”私”は置いて行かれた自分を重ねている。

 

1番Aメロ(後半)

ともだち 隠恋慕

もういいかい

忘れて 好きだなんて

嘘だからね

 

「ともだち」

タイトルにもなっているともだち。

”あなた”のことを指していそうだが、後で考察。

 

「隠恋慕 もういいかい」

”隠恋慕”と書いて、かくれんぼ。

隠した恋のきもち。

”私”は”あなた”に恋をしていてそれを隠してきた。

「もういいかい」を言うのはかくれんぼで目を伏して相手を待っているとき。

長いこと恋心を表に出さず我慢していたことをこの一言に込めている。

”隠した恋”と”長く我慢していたこと”をかくれんぼで繋げる技巧。

当て字としての仰々しさもなく、素晴らしい歌詞だ。

 

「隠恋慕」はもう少し掘り下げたい。

隠恋慕という言葉を”私”が思い浮かべたのはなぜか。

自分の気持ちを隠れた恋慕と認識⇒そこに”かくれんぼ”を重ねた

……という流れも考えられる。

けれど、恋慕という普通使わない言葉を何のとっかかりもなく思いつくだろうか。

それに自分の切ない気持ちで言葉遊びをする余裕があるだろうか。

”あぁ私の気持ちは隠れた恋慕…これは隠恋慕だ…”と考えたというのは違和感がある。

おそらく、順序が逆だ。

先に”かくれんぼ”が頭に浮かび、そこから「恋慕」を連想した。

その方がどう考えても自然だ。

ではそもそも”私”がかくれんぼを思い浮かべるきっかけとなったのは何か。

ここまでの歌詞で一般的に見てかくれんぼに関連しそうなワードはない。

しかし、仮に2人が幼馴染だった場合はどうか。

夕方+あなた+置いてけぼり、がきっかけとなり得る。

さいころ夕暮れまでかくれんぼをして一緒に遊んでいた。

”あなた”が隠れるためにその場から去っていき、”私”はポツンと残される。

いま、茜色の空の下で”あなた”が去り、”私”の前から離れていく。

それを見てかくれんぼを思い浮かべたのではないだろうか。

だいぶ想像が混じる仮説だけれど、この後のセリフも幼馴染の匂いが若干する。

 

「忘れて 好きだなんて 嘘だからね」

少女漫画を読む人ならば何十回と見てきた定番中の定番。

ずっと仲が良かった男の子についに告白してダメだったときのセリフ。

なんとか変な空気にならないようにと告白した子が苦し紛れに口にする。

いまさら嘘だと言ってもなかったことに出来るわけがなく、痛々しく、苦しい。

このセリフはもちろん”私”のセリフ。

 

「ごめんね ありがとう」

ここで冒頭の歌詞に戻る。

曲の一番はじめの歌詞。

ここまでの歌詞を読んだ後だと何に対する”ごめんね ありがとう”なのかは明白だ。

告白をお断りするときのこれまた常套句だ。

 

曲中でセリフ調になっている歌詞は

「ごめんね ありがとう もう行かなきゃ」と

「忘れて 好きだなんて 嘘だからね」の2つ。

2つのセリフは切なくも綺麗につながっている。

もしかしたら作詞の途中段階では連続した歌詞だったのかもしれない。

 

1番Aメロでは、私の密かな片思い、そして失恋が読み取れる。

 

1番Bメロ~1番サビ

それでも できることなら

時を戻し

あの娘の前で

熱くあなたと手をつなぎ

ノロケ話で やきもち

焼かせてみたいの

 

ここのパートは、曲者だ。

 

「それでも できることなら」

”それでも”は曲中で3回登場するキーワード。

一口では語れない”私”の複雑な思いが込められている。

後で考察する。

 

「時を戻し あの娘の前で」

3人目の登場人物、”あの娘”。

やきもちを焼かせてみたい。

となると”あの娘”も”あなた”のことが好きなようだ。

三角関係の物語であることが確定する。

 

「熱くあなたと手をつなぎ ノロケ話で やきもち 焼かせてみたいの」

時を戻して熱く手をつなぎたいとは一体なんなのか。

普通、いま振られた”私”が過去に行ってもどうにかできるわけではない。

にもかかわらず過去に戻りさえすればなんとかなりそうなニュアンスだ。

だからこそ”私”は、時を戻せるなら……と考えている。

このことから、直近でなにか決定的な出来事があったのだと推測できる。

過去に戻らないといけないくらい取り返しのつかない出来事。

文脈的に考えられるのは1つ。

”あなた”と”あの娘”が付き合い始めた。

ずっとが好きだった”あなた”が”あの娘”と恋人同士になったのだ。

 

「あの娘の前で」

さて、”私”は時を戻してどうしたいのか。

もちろん過去をやり直して”あなた”と付き合いたいはずだ。

けれど、それだけでは説明のつかない部分がある。

「あの娘の前で」の部分だ。

彼と付き合って熱く手をつなぎたい……分かる。

ノロケ話をしたくなる……分かる。

”あの娘”の前で……なぜ??

なぜ”あの娘”の前なのか。

付き合えるならそれで良いのではないだろうか。

それを考える上で歌詞の外形的な特徴がヒントになる。

この1サビ、歌詞の他の部分とは違った特徴がある。

歌詞はすべて私の心の中のつぶやきで出来ている。

そして散発的なのが特徴だ。

ぽつりぽつりと単語で語られることが多く、情景がふっと現れては消える。

けれども、1サビの場面だけは、妙に描写が具体的でリアル。

手をつなぐことやノロケ話をすること自体に強いこだわりがあるようだ。

そして”あなた”への想いを語っているのにここでは”あの娘”が話題の中心だ。

”あなた”のことと同等以上に「あの娘の前」であることを重視している。

となると、ほぼ確実にいえる。

目の前で熱く手をつないだりノロケ話をしたのだ。

あの娘、”私”の前で。

 

あの娘が何者でなにをしたのか、文字で説明するとこのように長くなってしまう。

けれど歌詞に「あの娘の前で」が来た瞬間に察した人もいると思う。

そのくらい、1サビは恋に破れた女子ムーブとして分かりやすい。

同じことをやり返すことでしか心が取り戻せない状態だ。

嫉妬心と復讐心とが混ざった感覚といったところ。

 

ここまでの解釈を前提にさらに考察を重ねる。

目の前で手をつなぎノロケ話をしてきた”あの娘”。

恋のライバルであった”私”に当てつけたのだろうか。

そうは思えない。

根拠は少し先の歌詞の、落ちサビ。

3人で一緒に卒業写真を撮る未来図を”私”がイメージしている。

恋で敗れた相手が底意地の悪い性格ならば、もはや避ける一択。

肩を寄せ合う写真なんて撮るはずがない。

なので元々”私”と”あの娘”は仲が良いのだろう。

なおかつ”あの娘”には悪気がないのだ。

そのことを”私”が重々承知しているからこそ、この未来図があり得る。

 

”あの娘”は自分の気持ちを”私”に相談していたのだと思う。

一方で”私”は”あの娘”に自分の気持ちを明かさなかった。

だから”あの娘”は”私”の前で無邪気に手をつないだりノロケ話をしてくる。

そう考えると、とてもしっくり来る。

 

1番Bメロ~1番サビは、曲者だ。

さらっと読み流せてしまう歌詞なのに、決定的なことが暗に示されている。

三角関係。2人が恋人になったこと。こじらせた嫉妬心があること。

 

1番補足

さきほど素晴らしいと言った歌詞「隠恋慕」について。

この歌詞について、再度、掘り下げる。

ここで使わている恋慕という言葉、普段あまり目にしない。

”恋慕の情”なんていう言い回しがあるが実際に使われていることはそうそうない。

この言葉が使われるときには、たいてい、頭にもう一文字つく。

そう、”恋慕”。

ひとの恋人に思いを寄せる意味の語。

”私”のいまの状況はまさに横恋慕だ。

偶然の一致とは思いがたい。

かくれんぼ。よこれんぼ。

口にしてみると音も韻もほぼ一致する。

「隠恋慕」の字面と音から自然と”横恋慕”という私の状況が連想される。

あらためて、秀逸な歌詞だ。

 

2番Aメロ

占い 合言葉

猫のあくび

ひとりの 時はいつも

泣いて 泣いて

 

「占い 合言葉 猫のあくび」

1番Aメロで出てきた情景は、茜雲と宵の明星。

私の心情を表していた。

占い、合言葉、猫のあくび。

これも何かしら意味がありそうだ。

しかし1番Aメロとは違ってそれぞれ共通性や関連性のある単語ではない。

”私”の状況や心情を連想させる言葉でもない。

この3つのワードだけを見ていても分からない。

そこで続く歌詞を読んでみる。

 

「ひとりの 時はいつも 泣いて 泣いて」

これはどういう状況か。

泣く理由となりそうな出来事は、歌詞中で失恋だけだ。

学校から帰宅して1人になると失恋を思い出し涙してしまう…ということだろうか。

おそらく、違う。

若干ニュアンスが違う。

歌詞は「ひとりの時は」となっている。

”ひとりになると”ではなく、”ひとりの時は”だ。

”ひとりではない時”を明確に意識した表現だ。

1人じゃなかった時といまを比べて泣いていることが読み取れる。

1人じゃなかった時。

ここでつながってくる。

占い、合言葉、猫のあくび。

友達と一緒に笑いはしゃいだ思い出のワードだ。

 

特に、合言葉。

合言葉は複数人で示し合わせて使うもの。

仲良し同士だけで通じるくだらなくてとても楽しい謎の合言葉。

”Love!Dream!Shine!”といった掛け声であったり。

”うぇ~い”みたいな特に意味のない挨拶であったり。

"心友"のような仲間内だけで意味が通じるワードであったり。

以前はこういった合言葉を交わして盛り上がっていたのだ。

 

占いを一緒に見て盛り上がり。

合言葉を交わしあってはしゃぎ。

帰り道で猫のあくびを見てそれだけで大笑いして。

そんな毎日だったのだ。

では、誰と一緒に笑いあっていたのか。

”あなた”と”あの娘”と3人のはずだ。

これは未来の卒業写真が3ショットであることから言える。

失恋の気まずさがあるはずなのに”私”は3人一緒のイメージをしている。

以前から仲良し3人組でなければこうはならない。

 

「ひとりの 時はいつも」

当初の問いに戻る。

これは、文字通り1人だといつもという意味なのか。

ここまでの解釈を踏まえると、もっと限定的な意味だ。

”ひとりではなかった時”を強く意識した表現。

3人で〇〇したときはいつも笑い合っていた。

1人で〇〇しているいまはいつも泣いている。

こういう対比が心の中にあるのではないだろうか。

1人で占いページを見たとき。

1人で合言葉をつぶやいたとき。

1人の帰り道で猫のあくびを見かけたとき。

3人だったときのことがよぎって涙が止まらないのだ。

帰宅して部屋で1人泣いているという解釈も、もちろんあり得る。

決定的に否定する根拠はない。

ただ、部屋にいながらふと猫のあくびを思い出すことはあまりない気がする。

また歌詞の作りとしても同じ行動をとったときの方がきれいだ。

2番Aメロ内で前後がきれいに対比構造になる。

なので、1人で同じ行動をしたときにいつも泣いてしまうと解釈した。

 

2番Aメロは、楽しかった記憶との対比で一人の”私”が強調されている。

 

2番Bメロ~2番サビ

すべてが 許されるなら

心歪め

あなたの前で

ありもしない噂話

そっとつぶやき 励まし

慰めてみたい

 

「すべてが 許されるなら」

これは、過去やらかしてしまったこと全部が許されるなら、という意味か。

それとも、もしなにをやっても許されるのであれば、という意味か。

前者だとすると、このあとの2サビとつながって来ない。

後者ならば、うまくつながる。

”もしなにをやっても許されるのであれば”の方だ。

こちらは2サビの内容にガッチリはまる。

 

「心歪め」

心を歪めるというのは心を正しくない状態にすること。

いわゆる、闇堕ち。

すべてが許されるなら心を歪めて何をするのか、とても不穏だ。

初めてこの歌詞を読んだときは、”心をコントロールして励ます”の意味かと思った。

メロディが美しいため、歌詞もきれいな意味だろうと錯覚した。

が、心を歪めるという言葉にそのような意味はない。

闇堕ちの意味で合っているはずだ。

 

「あなたの前で ありもしない噂話 そっとつぶやき 励まし」

さらっと読むとなにか良いことをしているようにも見えるこの場面。

上と同様、嘘の噂話で励ましてあげる優しい行動かと最初は思った。

しかし、よく考えるとおかしい。

嘘の噂に頼ることなどせず、私自身の言葉で励ましてあげたら良い。

”皆あなたのこと褒めてたな”なんて伝えるより”私は素敵だと思うよ”の方が効く。

仲の良い友達の言葉ならなおさらだ。

嘘の噂をつぶやく必要はない。

ここは、絶対に許されないようなことを夢想している場面。

”あなた”が絶望するような噂話を捏造してしまいたいと考えている。

さりげなくひどい噂話を耳にしたと伝え、落ち込んだところを励まし慰める。

自作自演の許されない行為。

心を歪ませなければできない行動。

そんなことすらやってしまいたいと夢想している。

それほどまでに”あなた”への想いはいまも変わらず強い。

 

「慰めてみたい」

悪い噂話で落ち込んだ”あなた”を慰めるのは、普通なら恋人の役回りだ。

仮にタイミング良く”私”が慰めたとしても最後は”あの娘”がもっていく。

それでは”すべてが許されるなら”やりたいこととして、ショボい。

とすると、捏造する噂話は”あの娘”のことだ。

”先輩ともキスしてたって…あの娘…”のような。

そうすると”私”が慰める役回りになる。

そして慰めることで”あの娘”から”あなた”を奪うことができるかもしれない。

そんな夢想をしているのだ。

 

やりたいことの邪悪さに反して、言葉にはあなたへの慈しみが込められている。

”そっとつぶやき 励まし 慰めてみたい”

ここだけ切り取ると柔らかく繊細で愛情深さを感じる。

味わいのある歌詞だ。

 

2番Bメロ~サビには、”あの娘”を貶めて”あなた”を振り向かせたいその一心。

 

3番Bメロ~落ちサビ

それでも できることなら

時を進め

卒業写真

一足先にのぞいたら

あなたとあの娘と私

肩寄せ合ってる

 

「それでも」

2度目の登場。

後でまとめて考察。

 

「時を進め 卒業写真 一足先にのぞいたら」

”私”たちの年齢を想像してみる。

小学生や大学生ではないとして、中学生・高校生どちらなのか。

”私”のチョイスする言葉が中学生離れしている。

”心歪め”という言葉が出てくる中学生はまずいない。

また”慰めてみたい”という愛情の向け方も中学生には早い気がする。

ということで高校生と予想。

つぎに、学年。

卒業写真の時期が”一足先”。

1年生はおそらく卒業写真を意識しない。

2年生の前半もおそらく同様。

逆にいま3年生の中盤以降だとすると一足先の未来を覗き見る感じがしない。

なので、高2の後半か高3の前半と予想。

彼らは17歳前後ということになりそうだ。

 

「あなたとあの娘と私 肩寄せ合ってる」

既に何回か出しているけれど、歌詞の深い部分に気付くきっかけになるのがここ。

失恋のダメージや”あの娘”への嫉妬がそう簡単に消えるとは思えない。

なのに、未来をイメージすると結局3人で仲良く写真に収まっている。

私の中でも、やはり仲良し3人組なのだ。

 

注目ポイントは、3人の並び。

”あなた”-”あの娘”-”私”の順。

これが卒業写真の並び順に対応している。

そう断言できるのは「あなた」「あの娘」「私」はいずれもひらがなで3文字。

文字数が同じなのでリズムとの関係ではどの順にしても構わない。

音に合わせなきゃという制約がない。

制約がないのならば当然、写真で並んでいる順に歌詞に書く。

 

この並びを見ると、私のイメージする未来の関係性が見えてくる。

”あなた”と”あの娘”はおそらく変わらずに付き合っている。

”あなた”と”私”はまだ多少ギクシャクしている。

そして”あの娘”と”私”。

”あの娘”と”私”が隣り合っている。

1サビでは”あなた”と付き合っている姿を見せつけてやりたいと考えていた。

2サビでは悪い噂を捏造してやろうとまで考えていた。

それなのに隣で仲良く肩を寄せている。

不思議な心情だ。

 

ここで”私”が卒業写真を覗いてみた、その意図について考えてみる。

恋の歌で未来を覗きたいときたら、恋がうまくいくか知りたいに違いない。

直感的にはそう思う。

しかし本当にそうだろうか。

いま覗いているのは、卒業写真だ。

恋が成就してカップルになったとしてそれは卒業写真で分かるだろうか。

卒業写真ではラブラブな写真を撮らないだろうし載せないだろう。

卒業式の写真を恋人同士2人っきりで撮るにしてもそれはあくまで個別にだ。

恋の行方を知りたいのであれば卒業写真を覗いてもあまり意味はない。

ならば”私”が知りたかったのはまさに写っているそのもの。

”あなた”と”あの娘”と”私”、3人の関係だ。

3人の友達関係がいまだ続いているのかが気になったのだ。

 

ここは直感と解釈が大きくズレた。

ただ、ここまでに何度か出てきたとおり、”私”と”あの娘”はかなり仲良しだ。

”私”の暴走によって関係が壊れるかもしれない。

失恋ゆえに関係がギクシャクするかもしれない。

そうならないか心配になって未来が見たくなるのは自然な心の動きだ。

そして、写真で”私”と”あの娘”が肩を寄せ合っているのもうなずける。

結局のところ、”私”は”あの娘”のことも大事なのだ。

 

3番Bメロ~落ちサビでは、”私”の願う3人の関係性が読み取れる。

 

大サビ

それでも いつか

あなたの前で

ありもしない噂話

そっとつぶやき 励まし

慰めてあげる

抱きしめてあげる

 

「それでも いつか」

3度目のそれでも。

前の2つとは違うメロディが当てられている。

そのことも踏まえて後でまとめて考察。

 

「慰めてあげる 抱きしめてあげる」

”あげる”という言い方が、怖い。

振られた相手に対しての言葉としておかしい。

ストーカー的な言葉の使い方になってしまっている。

また、2番では”慰めてみたい”だった歌詞が”慰めてあげる”に変化。

”すべてが許されるなら”と”心歪め”の条件もなくなっている。

夢想するだけで、およそ実行しなさそうな口ぶりだった。

しかし大サビでは”いつか”実行するのだという心構えの変化が見られる。

1つ前の落ちサビでは、未来の自分が友達関係を壊してないか心配していたはず。

でもこのままでは嫌なのだ。

邪悪な手段を使ってでも”あなた”への想いを成就させたい。

 

かなり危ない精神状態にも思えるラスト。

そのくらいの意気込みが実際にあるのだろう。

でも本当にそうなのか?

この後の考察で検討する。

 

考察1:「それでも」

この曲において「それでも」がとても重要なワードだ。

まずはどうして重要といえるのかを語りたい。

一般的に、曲中で一度出てきたフレーズを使い回す作詞はよく見かける。

特にサビ。

語感を重視して、意味的にはつながらないけれど同じ言葉を置く曲は多い。

この曲ではどうか。

1番Bメロは「それでも できることなら」。

2番Bメロは「すべてが 許されるなら」。

共通点は”~~~なら”だけだ。

であれば、3番Bメロも”~~~なら”の形であればなんでも良いはず。

にもかかわらず1番Bメロと同様「それでも できることなら」になっている。

あえて同じ歌詞にしていると思われる。

また、大サビにも「それでも」が出てくる。

ここはBメロがない。

なのに別のメロディにわざわざ「それでも」を登場させている。

重要でないはずがない。

この曲のテーマがここにあると個人的には考えている。

 

以下、3つの「それでも」を解釈して並べてみる。

 

1番Bメロの「それでも」

忘れて 好きだなんて

嘘だからね

それでも できることなら

時を戻し

あの娘の前で

熱くあなたと手をつなぎ

ノロケ話で やきもち

焼かせてみたいの

 

”それでも”は、逆接の接続詞。

前と後で逆のことを言っていることになる。

 

それでもの前は、”あなた”に向けた告白を誤魔化すセリフ。

それでもの後は、過去をやり直して”あの娘”に見せつけたい気持ち。

真っ向から逆のことを言っているかというと、微妙だ。

 

それでもの前を軸に検討する。

それでもの前=告白を誤魔化した、の逆はなにか。

でも告白したい、でも付き合いたい、といったところだ。

たしかにそれでもの後にこの気持ちは含まれている。

しかしここは”あの娘”への嫉妬が中心だった。

なので、しっくり来ない。

 

逆に、それでもの後を軸に検討する。

それでもの後=”あの娘”に対する嫉妬、の逆はなにか。

”あの娘”と仲良くしたいという気持ちだ。

これはどうか。

告白を誤魔化した理由に”あの娘”との関係を壊したくない気持ちが入っていた。

そう考えると、きれいに”それでも”でつながる。

告白をなかったことにすれば3人の関係は概ね維持できる。

と思ったけれど、それでも、過去に戻ってやり直して見せつけてやりたい!

その気持ちが溢れてくることを否定できない。

そいういう「それでも」なのだ。

 

3番Bメロの「それでも」

心歪め

あなたの前で

ありもしない噂話

そっとつぶやき 励まし

慰めてみたい

それでも できることなら

時を進め

卒業写真

一足先にのぞいたら

あなたとあの娘と私

肩寄せ合ってる

 

2サビと3サビをつなぐ「それでも」。

それでもの前は、”あなた”を奪う手段として”あの娘”を貶めようとしている。

それでもの後は、”あの娘”も含め3人仲良しの未来図を想像している。

 

今度は先にあの娘への嫉妬が先に来て、後に友人関係の維持が来た。

順序は逆になったものの、葛藤の内容は共通。

注目したいのは葛藤の振り幅。

1番Bメロの感情は、いずれも大きくない。

告白を誤魔化して現状維持したいという気持ち。

過去を変えてちょっと意地悪なマウントをとりたいという気持ち。

3番Bメロの感情は、だいぶ大きい。

貶めてでも奪ってやりたいという強い気持ち。

未来でも肩寄せ合うくらい仲良くありたいという強めな気持ち。

 

大サビの「それでも」

あなたとあの娘と私

肩寄せ合ってる

それでも いつか

あなたの前で

ありもしない噂話

そっとつぶやき 励まし

慰めてあげる

抱きしめてあげる

 

ここは3番Bメロと逆転。

それでもの前は、”あの娘”も含め3人仲良しの未来図を想像している。

それでもの後は、”あなた”を奪う手段として”あの娘”を貶めようとしている。

ただし、またもや葛藤の振り幅が大きくなっている。

嘘の噂を流すことをいつか実行したいとまで考えている。

 

考察1まとめ

仲良くしたい、それでも奪いたい。

それでも仲良くしたい、それでもやっぱり奪いたい!

曲全体がこのような構造になっている。

この曲は切ない片思いの曲だ。

だがそれだけでは終わらず、1人で悶々と葛藤する胸の内を描いた曲だ。

 

考察2:「ともだち」

「ともだち」はタイトルであるほか、1番Aメロ(後半)に登場する。

1番Aメロを読んだときには感じ取れたのは、失恋の文脈のみ。

友達である”あなた”に密かに恋をし、結局友達止まり。

この時点ではタイトルにまでなっている意味は分からず。

しかしいまなら、納得する。

告白した相手である『ともだち』

自分の立場は恋人にはなれず結局『ともだち』

恋のライバルである『ともだち』

諦められない恋のため犠牲にする『ともだち』

そんな強い思いがありながらも仲良くしたい『ともだち』

たくさんの想いが詰まっている。

 

こうやって見てくると、”あの娘”は”あなた”と同等以上に存在感がある。

歌詞でたった2か所しか登場せず、一読しただけでは脇役にも思える彼女が。

解釈を進めるごとに、関係性が明かされていく。

 

最後に、大サビの解釈で保留にした点。

”私”が本当に嘘の噂を流すのか。

この先のことなので答えは分からない。

だが、これだけ葛藤している”私”が実行するとは思い難い。

これだけ大切に思ってしまっている”あの娘”との関係を壊すなどできるとは思えない。

成功しそうにない作戦にすがって心のよすがにしているだけのように思う。

そう考えると一周まわってとても切ない物語だ。

 

解釈・考察は以上。

以下、蛇足ながら根拠の薄い妄想。

 

妄想1:”あなた”の属性

”占い 合言葉 猫のあくび”は、3人一緒に笑いあった思い出。

しかし、違和感がある。

男子も占いで一緒に盛り上がり、男子込みの3人組で合言葉を作るのか?

もしかして”あなた”はおらず、”私”と”あの娘”の2人で楽しんだ出来事?

しかし3人組でないと、歌詞がきれいにつながってこない。

ここで仮説が湧いてきた。

登場人物全員、女子なのでは?

これは女子校の話なのでは?

そう考えたら色々しっくり来る。

「ごめんね ありがとう もう行かなきゃ」

なんとなく男性より女性っぽいセリフ。

「熱くあなたと手をつなぎ」

人目がある中で男子はこういうのを嫌がりそう。

女子同士だととても自然。

「ありもしない噂話」「慰めてみたい」

ひどい噂話を聞いた男子は信じて落ち込むだろうか?

その前に真偽をたしかめるのでは?

この点、女子は噂話に弱い傾向があり、効果的な気がする。

「あなたとあの娘と私 肩寄せ合ってる」

男・女・女の並びで肩を寄せ合うのが絵面として少しだけ違和感。

 

どれも全員女子だと若干しっくりくる気がする程度の話。

あくまで妄想。

 

妄想2:『ロマンスかくれんぼ

この曲はAKB48ロマンスかくれんぼ』を下敷きに作られたのではないか。

そんな妄想。

両曲には、かくれんぼを始め、歌詞に使われている言葉がいくつか共通する。

片思いを隠しているというストーリーも共通する。

『ともだち』の歌詞は『ロマンスかくれんぼ』の続きとして読むことができる。

もちろん、これは根拠として弱い。

かくれんぼをテーマに恋愛の詞を書くとしたら、歌詞もストーリーも似るのは当然だ。

なので、妄想だ。

でも、、『ともだち』のBメロ”できることなら”。

このメロディを思い浮かべて『ロマンスかくれんぼ』を聴いてみると……

妄想だけど妄想じゃないかもしれない、そんな気にさせられる…かもしれない。

 

妄想は、以上。

 

歌詞解釈のきっかけ

このブログは『ともだち』の歌詞解釈を綴るためだけに作りました。

言葉にせずに関係性を描くこの歌詞の奥深さに感動して形にしたいと思ったからです。

そして、ありがちな歌詞と思っていたこの歌詞をじっくり読むきっかけは、SKE48坂本真凛さんの『ともだち』のパフォーマンスを見たことでした。

身体の奥底まで「切ない」で満ち満ちて見える、あの演技です。

あの演技を見て、もしや思いのほか深みのある曲なのではと直感し、まともに歌詞を読んでみた次第です。

もちろん解釈は必ずしも一致しないかとは思いますが、良い作品に気付かせてもらって感謝です。

 

それから参考にさせてもらったnoteがあります。

 

note.com

 

はじめのうち、こちらのnoteを副読本にしながら歌詞を読み進めていました。

なので、解釈のヒントをたくさんもらいましたし、文章の運び方など似てしまった部分もあるかと思います。

こちらのnoteもブログを書き始めるきっかけの1つです。

 

今後このブログでなにか書くのか決めていませんが、また長文を書きたくなる何らかのきっかけがあれば使っていこうと思っています。