【歌詞解釈】SKE48『旅立てジャック』-真の旅立ちに至るまで

SKE48『旅立てジャック』(作詞:小室哲哉/藤井徹貫 作曲:木根尚登

 

”愛を君に、愛を僕に”公演の3曲目。

『旅立てジャック』はこの公演の中で一番ロックな印象の強い曲調。

歌詞も、旅立つ準備はできてるか さあ行こう 踏み出せ と勇ましい。

「よっしゃいくぞー!」という掛け声がピッタリくる曲。

 

スラスラ読める歌詞で解釈の余地なし……かと思いきや、とんでもなかった。

歌詞の表側からは見えない隠された心の動きが濃厚に描かれている。

その上、この歌詞には時代を超えた大きな仕掛けが施されている。

そのあたりを追っていきたい。

 

youtu.be

 

以下、長文の歌詞解釈をしていきます。

根拠があるのかないのか。どの程度の信憑性がありそうな解釈なのか。

そのあたりがなんとなく伝わるように心がけています。

文章がまどろこしくなるのを避けるため、やや断定的な口調で書いています。

その点はご容赦ください。

長文がキツイという方には、目次の★のついた部分がおススメです。

 

 

語りたいポイント

この曲の歌詞を読んで気になったところは、3つ。

1.Aメロ&Bメロとサビとの関係

AメロBメロからどういう流れで旅立つことにしたのか。

2.ジャックは何者か?

謎の人物、ジャック。

彼の正体は一体なにか。

3.Cメロの謎の景色

他の歌詞と明らかに異質で詩的な白い月。

妙に強調される月は何を表しているのか。

 

①Aメロ&Bメロとサビとの関係

AメロBメロとサビがパッと見では繋がっていないように見えるため、掘り下げる。

 

AメロBメロが登場するのは合計3回。

3回とも内容的には似ている。

Aメロでは、周りのオトナの理不尽に主人公が反発する

Bメロでは、その周りに屈しない生き方の価値を認め肯定する

という流れ。

 

1番Aメロ(前半)

子ども扱いは うんざり

自分の事は自分で決めろ

制限 門限 げんなり

自分の道なんだもん

1番Bメロ(前半)

聖人君子じゃあるまいに

たまにはコケるし 踏み外すさ

1度や2度やらかすくらいなら

なんでもないさ

 

Aメロでは、親の過保護な心配に不満を持っている。

そしてBメロでは、失敗なんか気にして生きることない!と主張。

 

1番の後半も同じ流れ。

Aメロで、見知らぬヤツの上から目線に反発している。

Bメロでは、相手が誰だろうと迎合せず生きよう!と言い放つ。

2番も同様。

Aメロでは、事なかれ主義と正直者が損する社会に否定的。

そしてBメロで、そんな社会に合わせず自分らしさ優先でしょ!と断言。

 

いまの流れを受けてサビ。

これを考える前提として、先にこの曲の登場人物を確定させておきたい。

サビでは、主人公がジャックに問い掛ける形をとっている。

主人公のほかに、ジャックが登場する。

しかし、おそらく多くの人が歌詞を読んで思ったとおり、登場人物は主人公1人だ。

主人公が準備はいいか!旅立て!と煽り続ける歌は常識的にあり得ない。

ジャックは、主人公の心の中の人物だ。

なお、ジャックの詳細な正体については、後で語る。

 

さて、Bメロで周りに屈しなくていいと自己肯定した。

そうするとサビでは、さぁ旅に出よう!という気持ちになっている。

繋がっているだろうか?

周りに屈せず生きていいんだと思えたあと、普通はどういう反応になるか。

あ~良かったマイペースに行こう、ではないだろうか。

うるさい親のいうことなんか聞かずに家でゲームしてよう、でも良いはずだ。

なのにこの主人公は、よし旅に出よう!準備はいいか!踏み出せ!と息まいている。

となると、ここに隠れた前提がある。

主人公は、もともと旅出たなければいけないと思っていた、という前提。

だけど周りがうるさいし外に出ても報われない。

だからくすぶって引きこもっていたのだ。

これで繋がる。

 

本当はやるべきことをやるために前に進んでいかなければならない。

でも親がうるさいから踏み出せない。

上から目線で文句を言うやつがいるから動き出せない。

社会が良くないから何もする気になれない。

これが主人公の初期状態。

そこから、周りなんか気にしなくていいじゃないかと割り切って自分を奮い立たせた。

そうして旅立とうという気持ちになったのだ。

 

②ジャックは何者か?

タイトルを読んだ瞬間、誰もが謎に思ったジャック。

ジャックが主人公の心の中の人物であることは察することができる。

しかし主人公は日本人なのに、女の子なのに、なぜジャック?

歌詞を読んでもジャックに関する情報は全く出てこない。

 

答えはどこにあるのか。

 

実は、「旅立てジャック」とネット検索をすると、一発で答えにたどりつく。

レイ・チャールズ『旅立てジャック(Hit the road Jack)』

音楽史に名を残す伝説的ミュージシャンの代表曲の1つ、とされる。

 

youtu.be

 

こんな独特なタイトルで、完全一致。

しかも音楽業界では有名な曲。

となれば偶然の一致はあり得ない。

ジャックの由来はこれだ。

 

では、この元ネタであるレイ・チャールズの『旅立てジャック』はどんな曲か。

(紛らわしいので、以降は原題の『Hit the road Jack』と表記)

一言でいうと、ろくでなしの歌。

女性から愛想つかされ、金も稼がない奴は出てけ!と言われるJack。

いつか立ち直るから酷いこと言わないでくれよ~と懇願するも、許してもらえない。

じゃあ荷物まとめるよ…と言いつつ、本気じゃないんだろ?と顔色を窺ってみたり。

女性とJackのそんなやり取りが繰り広げられるコミカルな歌だ。

 

『Hit the road Jack』では、ろくでなしのJack。

これに対して『旅立てジャック』(SKE)の主人公は、だいぶ前向きだ。

自分から旅に出ようとして、準備はいいか、踏み出せ!と自分を鼓舞している。

両者には一見ほとんど共通点がない。

それなのに主人公はJackに自分を重ねている。

これは、主人公がJackの背景を想像で埋めたものと推測できる。

つまり、Jackには実はこういう面があったのだと解釈したのだ。

ろくでなしだけど、ある意味で純粋な男なのだ、と。

純粋ゆえに、理不尽を受け入れられず、葛藤し、働きに出られなかったのだ、と。

自分の生き方を肯定できればきっと前に進める奴なのだ、と。

主人公は、Jackをこういう人物だと想像したものと思われる。

そして自分の心の中のくすぶっている面を”ジャック”と呼んだのだ。

これがジャックの正体だ。

 

③Cメロの謎の景色

Cメロ

寒い国の 白い月は

凍え眠る

この曲で印象深い歌詞がCメロ。

息も凍りそうな寒さ、静けさ、透明感。

動植物ではなく月が凍え月が眠るという幻想的な表現。

詩の形式面も美しい。

漢字ひらがな漢字ひらがな漢字ひらがなという規則的な並び。

4文字をワンセットにして3組並べるのも規則的で美しい。

音としても、サムイ クニノ シロイ・・・とすべて3音で揃えてある。

情景としても言葉の並びとしても、非常に美しい歌詞。

 

だけど、この情景には前後の脈絡がないように思える。

それまでの印象とまったく違う情景がいきなり差し挟まれている。

異様に美しく強調されているため、余計にどう捉えてよいのか戸惑う。

寒い国のお話はどこから出てきたのか。

白い月が強調されているが、なにを表現したいのか。

この曲でダントツに解釈が難しく、鍵となるポイントだ。

 

歌詞の中にヒントがないか探してみる。

国を示すような歌詞は一切ない。

 

白い月はどうか。

これは、対になるものがある。

「昇る日」「沈む日」。

つまり、赤い太陽だ。

歌詞や比喩表現を読み解くときに”対比”になる箇所は、大ヒント。

そこで「日」が出てくる歌詞をピックアップしてみる。

 

1番サビ

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

日が昇る

2番サビ前半

昇る朝日に背を向け

Are You Ready?

さあ、行こう

2番サビ後半

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

日が沈む前に

 

並べてみたことで、2つハッキリした。

 

1つ目-対比。

赤い太陽が出ているとき、主人公は、よっしゃ行くぞー!の気持ちだ。

自分を焚きつけている。

対して、白い月のとき。

主人公の気持ちはどうなっているか。

赤と白、太陽と月、非常にきれいな対比だ。

黄色い月ではなく、わざわざ白い月と指定して、対比がより明確になっている。

きれいな対比、ということは、心情は真逆であることを示している。

つまり、白い月のパートでは、主人公ののだ。

明確な対比表現がある以上、こう解釈するのが鉄則だ。

これを否定する強い根拠が出て来ない限り。

なお、これを否定する根拠になり得るラスサビについては、後ほど触れる。

 

2つ目-時系列。

日が昇る(1サビ)→→昇る朝日(2サビ前半)→→日が沈む前に(2サビ後半)

歌詞が下るに従って、明け方→→朝方→→夕方、と時間が経過している。

この間、主人公は何をしていたか?

答え。

あえて言うならば、自問自答だ。

旅立つ”準備”はできてるか?

Are You Ready? Are You Ready? Are You Ready? Are You Ready?

行こうよ、ジャック。踏み出そうよ、ジャック。

……そして、白い月も凍え眠る夜になった。

 

踏み出そうとなんとか自分を奮い立たせた。

しかし、何もできないうちに時間が過ぎ、気持ちが萎えた。

そんな弱い自分の本質に直面しているのが、このCメロだ。

 
答え合わせ

この結論は、メロディの勇ましさからするとにわかには信じがたい。

しかし、少し考えてみるとむしろ当たり前の結論だ。

というのも、ジャックの原型は、女性に愛想尽かされたろくでなし。

ベースがあのJackなのだから、そんな簡単に踏み出せるわけがない。

自分の生き方を肯定して踏み出そうという気持ちにまでは持って行けた。

それでも実際に踏み出すとなると、難しい。

ずっとくすぶっていたジャックがそう簡単に旅に出られるわけがないのだ。

 

思えば、主人公の意気込みには具体性がなかった。

地平を目指す!とか、風に乗る!とか、抽象的で遠大な話ばかり。

本当にやる人は、もっと具体的で現実的なことを話す傾向にある。

例えば、お気に入りの服を着て気合いを入れたとか。

ベッドから出て朝食をとって歯を磨いた、とかでも良い。

靴紐をきゅっと結んだ、だとなお良い。

こういった具体性ある歌詞の欠如から、旅立ちを躊躇っていることが透けて見える。

 

2番サビの「日が沈む前に」という歌詞も、その流れで読むとしっくり来る。

1番サビの方の歌詞は「Are You Ready? 日が昇る」。

2番サビ(後半)では「Are You Ready? 日が沈む前に」。

同じメロディなのに、「日が沈む」の方にだけ「前に」が付いている。

「Are You Ready? 日が沈む」でも意味は通る。

字面も音もその方が据わりが良い。

にもかかわらず「前に」がついている。

日が昇るときの気合いと日が沈む頃の気合いとの間にはなにか違いがあるのだ。

「前に」は、期限をあらわすワード。

とすると、焦り。

夕方までにはなんとか出発しないと!という焦りが含まれていると分かる。

出発できずに半日以上経過していることへの焦りだ。

 

同じようにラスサビ「時の流れは待ったなし」という歌詞。

それまでは「旅立つ準備はできてるか」が当てられていた箇所。

この曲のテーマであり一番インパクトのある歌詞がラスサビで変更されている。

意識の重点が、旅に出ること自体よりも時間が経過の方に行っているからだ。

もう出発しなきゃ!という気持ちが読み取れる。

 

歌詞や背景事情にこれだけ多く裏付けがある。

やはり、時間ばかりが過ぎていってジャックは踏み出せずにいるのだ。

 

真の旅立ち

夜になり、自分の凍え眠る気持ちに直面した主人公。

朝から奮起したものの、自分を動かすには至らなかった。

では自分の中のジャックを鼓舞し続けたのは無駄だったのか。

どうも、無駄ではなかったようだ。

 

ラスサビ(前半)

旅立つ準備はできてるか

Are You Ready?

星を辿って

重い荷物を背負って

Are You Ready?

 

主人公が具体的で現実的なことを話していない、とさきほど指摘した。

この点、「星を辿って」というワードは、少し現実的だ。

なにせ、2番では「風に乗る」という空想的な方法だったのだ。

 

もっと大事なのが、「重い荷物を背負って」。

ついに、具体的なワードが登場した。

「荷物」。

旅の準備といえば、荷づくりだ。

このワードが出たということから本気度を感じる。

しかも「重い」という言葉。

実際の旅立ちというのは、風に乗って遠い地平まで行ける気軽なものではない。

大変な思いをしながらボロボロに疲れ果てながら行くものだ。

旅の計画を夢想しているときは愉快なことばかりが思い浮かぶ。

しかし、いざ行こうという段になると面倒なことがたくさん頭をよぎるものだ。

旅に対する大変さを示すワードが登場し、かなり現実味を帯びてきた。

 

どうやら、Cメロの箇所で自分の本音に直面しきちんと対峙したようだ。

勇ましい言葉で励まし俯瞰する自分とは裏腹に、凍えて眠る自分があらわになった。

ジャックいけるよ、踏み出せよ、と発破をかけていたが、弱い自分こそが本質。

そう自覚して、弱い自分を”ジャック”として他人のように扱うのではなく統合した。

自分の中に統合して折り合いをつけたのではないか。

ラスサビではもはや「踏み出せ」や「さあ行こう」というワードは出て来ないのだ。

 

ラスサビ(後半)

時の流れは待ったなし

Are You Ready?

進む覚悟はできてるか

Are You Ready?

 

ラスサビには決定的な単語がある。

「進む覚悟」。

「旅立つ準備」だった部分が「進む覚悟」に置き換わっている。

旅立つ準備を問うのは、スタート地点に立つ前の段階。

進む覚悟は、スタート地点に立ってから問われるもの。

これで確実。

主人公は、いまにも旅立とうとしている。

 

最後のAre You Ready?の連呼。

ここまでを踏まえると強さを感じる。

1番と2番の間奏のAre You Ready?は、自分に言い聞かせている印象。

最後のAre You Ready?は、葛藤しながらも気持ちが湧き上がってきている印象。

 

曲の最後。

ダダ・ダダ・ダダダダダと疾走感のある音が鳴り、最後にダーンで終わる。

最後のダーンが、個人的にはドアを勢いよく開けた音に思えた。

主人公は、夜の一番寒いときに自分に直面し葛藤しながらも前に進むことを決めた。

そして、最後にはドアを開けることに成功したのだと思う。

真の旅立ちに至ったのだ。

 

時を経て旅立つジャック

『Hit the road Jack』は日本に入ってくる際に間違った訳がついたと言われている。

Hit the road には、”旅立て”という意味もあるが、どう考えても文脈に合わない。

ろくでなしのJackに腹を立てた女性が、旅立て!と背中を押すのはおかしい。

もう1つの意味である”出ていけ!”が正解だ。

ろくでなしがウダウダしている曲なのに、勇ましいタイトルがつけられてしまった。

これがおそらく60年ほど前のこと。

当時はこういう誤訳がときどきあったらしい。

 

誤訳により旅立つ使命を負ってしまったJack。

しかし、Jackはもちろん旅立たない。

『Hit the road Jack』の歌詞の後もしかしたら家を出たかもしれない。

しかし、それは自発的で積極的な旅立ちではない。

Jackは誤訳によって旅立つ使命を負わされ、ずっと果たせない状態にあった。

ずっと旅立てジャックと言われながら旅立つ姿を見せられていなかった。

そのJack(ジャック)が、この曲で、ついに旅立ったのだ。

それもただジャックという名前の人物が旅立ったのではない。

Jackのダメな部分をしっかり宿した主人公が覚悟を決めて旅立ったのだ。

60年の時を経て、小室哲哉/藤井徹貫がJackの使命を果たさせたのだ。

だいぶメタ的な見方ではあるが、とてもとても熱い物語。

 

あとがき

歌詞解釈2回目。

”上げて下げて上げる”歌詞という結論になりました。

曲調からするとシンプルに熱いだけ解釈が合う気もします。

なので、これで本当に合っているか何度も不安になりながら書きました。

もっとも、ひねらず順当に解釈したのでそう外していないのではないかと思います。

とはいえライブではシンプルに熱い曲をイメージした方が楽しめるかもしれませんね。

 

ちなみにこの曲で個人的に好きなのは、仲村和泉さん。

曲調に合った挑発的な表情とパワフルなパフォーマンスが魅力です。

 

今後ですが、愛を君に愛を僕に公演の中で何曲か解釈をやりたい曲があります。

『嵐からの隠れ場所』『小悪魔ブルーベリー』あたりが面白いと思っていますが、かなりガッツリした分量になりそうなので、箸休め的なものを入れたいなと考えています。